Abstract
73歳, 女性 (神奈川県在住) の右下腿に生じた Phialophora verrucosa による皮下の膿瘍性病変の1例を報告し, 若干の文献的考察を行つた. 旅行先のフィリピン・パナイ島海岸で右下腿に挫創を受け, 5週後創下方の皮下膿瘍に気づいた. 膿瘍部穿刺にて暗赤色膿汁を排出し, 鏡検にて一部に発芽のある淡褐色菌糸を多数認めた. 培養にて表面灰白色短絨毛に覆れた黒色集落を得, スライドカルチャーにて Phialophora 型分生子形成のみを認めた. 病理組織学的には, 真皮深層から皮下組織にかけて膿瘍をとり囲む肉芽腫性壁が認められ, 淡褐色で隔壁のある菌糸, 菌糸発芽, 胞子連鎖, 大型胞子を多数認め, 同時に大小不同の砂利片と思われる異物も多数認めた. 異物を含む膿瘍壁を掻爬し, ガーゼドレナージを行い, 抗真菌剤を投与せずに経過観察約1ヵ月にて病巣は瘢痕治癒し, 1年後再発を認めていない. 自験例は, Phialophora verrucosa による皮下の膿瘍性病変としては, 世界で2例目と思われる. 黒色真菌による皮下の膿瘍性病変は, phaeo-sporotrichose, phaeohyphomycosis, phaeomycotic cyst などと呼ぼれている. 本症の発病には, 宿主の免疫力低下とともに, 異物の組織内貯瘤も重要な因子と考えられ, 自験例のように異物を含めた膿瘍壁の掻爬により治癒する可能性があると思われる. 膿瘍部穿刺標本や生検組織内に菌系を主とする多様な褐色菌要素を認めることが, 診断の際, 重要と考えられる.